フローリングの傷・へこみは誰の負担?原状回復の判断基準をケース別に解説
2026年7月29日
賃貸物件の退去時、フローリングの傷やへこみをめぐる負担トラブルは非常に多く発生します。「これは経年劣化だから貸主負担」「いや借主の故意過失だ」と、当日その場で判断が割れやすい箇所の代表格です。
この記事では、フローリングの原状回復について、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方をベースに、どんなケースが借主負担・貸主負担になるのかをケース別に整理します。費用相場やトラブルを防ぐための実務ポイントもあわせて解説しますので、退去立会いや精算業務の判断基準としてご活用ください。
フローリングの原状回復の基本的な考え方
原状回復とは、借主が「借りたときの状態に戻す」ことではなく、借主の故意・過失や善管注意義務違反などによって生じた損耗・毀損を復旧することとされています。普通に生活していて自然に生じる劣化(通常損耗・経年劣化)は、家賃に含まれるものとして貸主負担が原則です。
この通常損耗と借主負担となる損耗の境界線については、経年劣化と通常損耗の違いとは?具体例でわかる負担の考え方でも詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。
フローリング特有のポイント:耐用年数の考え方
クロス(壁紙)の原状回復では、耐用年数6年に応じて借主負担割合が経過年数とともに減っていく「減価償却」の考え方が用いられます。一方でフローリングについては、ガイドライン上、部分補修の場合は経過年数を考慮せず、補修費用の全額(原則)を借主負担とするという考え方が示されている点が特徴です。
これは、フローリング全体ではなく傷ついた一部分だけを補修する場合、その補修によって建物全体の価値が増加するとは考えにくいためとされています。ただし、フローリング全体の張り替えを行う場合には、建物の耐用年数を基に減価償却が考慮されるのが一般的です。
この部分補修と全体張り替えで扱いが変わる点は、フローリングの負担判断で特に間違えやすいところなので、しっかり押さえておきましょう。
ケース別・フローリングの負担判断例
ここからは、実際の退去立会いで判断が分かれやすいケースを、借主負担・貸主負担の傾向に分けて整理します。あくまで一般的な考え方であり、契約内容や損耗の程度、地域の慣行によって判断が変わる点はご留意ください。
借主負担となりやすいケース
| ケース | 判断の傾向 | 理由 |
|---|---|---|
| 引きずったキャスター付き椅子による深いこすり傷 | 借主負担 | 手入れ・配慮を怠った善管注意義務違反とされやすい |
| 飲み物・水をこぼして放置したことによる変色・膨れ | 借主負担 | 拭き取りを怠ったことによる過失 |
| 重い物を落としてできた深いへこみ・割れ | 借主負担 | 通常の使用を超える毀損 |
| ペットによる引っかき傷・かじり跡 | 借主負担 | 飼育に伴う損耗(ペット可物件でも過度な場合は対象) |
| タバコの火などによる焦げ跡 | 借主負担 | 通常損耗を超える毀損 |
貸主負担となりやすいケース
| ケース | 判断の傾向 | 理由 |
|---|---|---|
| 日光(紫外線)によるフローリングの色あせ | 貸主負担 | 自然現象による経年劣化 |
| 家具の設置跡(通常の重みによる軽微なへこみ) | 貸主負担 | 通常の生活で生じる範囲とされる |
| 建物の構造上の欠陥による床鳴り・浮き | 貸主負担 | 借主の責任によらない |
| ワックスの自然な剥離・劣化 | 貸主負担 | 経年による自然な変化 |
判断が分かれやすいグレーゾーン
特に揉めやすいのが「家具のへこみ」と「キャスター傷」の線引きです。
- 通常の家具(ベッド・冷蔵庫など)を普通に置いていた跡 → 通常損耗として貸主負担とされることが多い
- 明らかに配慮を欠いた使い方による深い傷やへこみ → 借主負担とされやすい
この違いは「借主が通常の注意を払っていたか(善管注意義務を果たしていたか)」で判断されます。しかし当日その場で明確に切り分けるのは難しく、入居時の写真がないと水掛け論になりがちです。より詳しい貸主・借主の境界線については、原状回復費用の負担区分|貸主負担と借主負担の境界線を解説で解説しています。
フローリングの原状回復費用の相場
フローリングの補修・張り替え費用は、範囲や工法によって大きく変わります。以下はあくまで一般的な相場の目安です。
| 補修方法 | 費用相場の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 部分補修(リペア) | 1か所あたり 1万〜3万円程度 | 傷・へこみを目立たなくする専門補修 |
| 数枚分の張り替え | 3万〜7万円程度 | 損傷した板だけを交換 |
| 6畳程度の全面張り替え(フローリング材) | 10万〜20万円程度 | 部屋単位での張り替え |
| 6畳程度の全面張り替え(クッションフロア) | 4万〜8万円程度 | 比較的安価な床材への張り替え |
実際の費用は、床材のグレード、工事の難易度、地域、業者によって変動します。見積もりを取る際は、**「部分補修で済むのか、全面張り替えが必要なのか」**をあわせて確認すると、借主への説明もスムーズになります。
借主に費用を請求する場合、フローリングの負担分は敷金から精算されるのが一般的です。敷金精算の流れや返還時期については敷金返還のルールと精算の流れ|返還時期・トラブル防止策を解説をご覧ください。
トラブルを防ぐための実務ポイント
フローリングの負担トラブルは、事前の準備と記録で大きく減らせます。
1. 入居時の状態を写真・書面で記録する
最も重要なのが、入居前後の状態を写真で残しておくことです。既存の傷やへこみを入居時にチェックリスト化して双方で確認しておけば、退去時に「もともとあった傷」なのか「入居中についた傷」なのかを客観的に判断できます。
2. 契約書で特約の内容を明確にする
通常損耗の一部を借主負担とする特約を設ける場合、その内容が借主に明確に認識・合意されている必要があるとされています。あいまいな特約は無効と判断されるリスクがあるため、記載内容には注意が必要です。
3. 退去立会いでの確認を丁寧に行う
フローリングは光の当たり方で傷の見え方が変わるため、立会い時は明るい状態で複数の角度から確認することが大切です。見落としやすいチェックポイントは退去立会いチェックリスト完全版|見落としやすい箇所TOP10にまとめています。
立会いや精算の判断に不安がある場合や、遠方物件・繁忙期で対応が難しい場合は、専門の代行会社を活用する方法もあります。プロが客観的な基準で状態を確認・記録することで、後々の負担トラブルの予防につながります。退去立会い代行・原状回復会社の比較・検索から、条件に合う業者を探すことができます。
まとめ
フローリングの原状回復は、以下のポイントを押さえることで判断がしやすくなります。
- 通常の使用による劣化・色あせ・軽微な家具跡は貸主負担が原則
- こすり傷・水濡れの放置・深いへこみ・焦げ跡など、故意過失による毀損は借主負担とされやすい
- フローリングは部分補修なら経過年数を考慮せず借主負担、全面張り替えなら減価償却が考慮されるという特徴がある
- トラブル防止には入居時の写真記録と明確な契約書・特約が不可欠
フローリングは判断が分かれやすい箇所だからこそ、ガイドラインの考え方を理解し、客観的な記録をもとに借主へ丁寧に説明することが、円満な退去精算につながります。個別のケースで判断に迷う場合は、専門家や代行会社の力を借りることも検討してみてください。