退去立会いなしで退去させても大丈夫?リスクと対処法
2026年9月8日
結論から言えば、退去立会いなしで退去させること自体は法律上禁止されていません。ただし、立会いを省略すると「損傷が入居中に生じたこと」を貸主側が立証しにくくなり、原状回復費用を請求しても認められにくくなるという実務上のリスクがあります。やむを得ず省略する場合は、入退去時の記録を厚くする、あるいは立会いだけを専門業者に委託するといった代替策を組み合わせるのが現実的です。
この記事では、管理会社担当者やオーナーの方向けに、立会いなし退去の位置づけと起こりやすいトラブル、そしてリスクを抑える具体的な方法を整理します。
退去立会いは法律上の義務ではない
賃貸借契約の終了時、借主には物件を明け渡す義務があり、貸主には敷金を精算して返還する義務があります(民法622条の2)。しかし、明け渡しの際に貸主と借主が現地で顔を合わせて室内を確認する「退去立会い」について、民法や借地借家法が義務づけているわけではありません。
実務上、多くの管理会社が立会いを行っているのは、次のような目的があるからです。
- 室内の損傷・汚れの有無をその場で双方が確認し、認識を揃える
- 損傷の発生原因(入居者の過失か、通常損耗か)について借主から説明を聞く
- 鍵の返却本数や残置物の有無をその場で確認する
- 精算内容について後日の争いを減らす
つまり立会いは「義務」ではなく「トラブル予防のための手段」です。手段である以上、別の方法で同じ目的が達成できるなら省略も選択肢になります。
立会いを省略すると何が起こるか
損傷の発生時期を立証しにくくなる
原状回復費用を借主に負担させるには、貸主側が「その損傷が入居中に、借主の責めに帰すべき事由で生じたもの」であることを説明できる必要があります。民法621条は、通常損耗や経年変化を原状回復義務の対象から除外しており、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も同じ考え方を採っています。
立会いがあれば、借主が目の前で損傷を確認し、「これは自分がつけた」と認めた事実が記録に残ります。立会いがないと、借主は後から「退去時にはそんな傷はなかった」「もともとあった傷だ」と主張しやすくなり、貸主側は入居時の記録との比較だけで説明することになります。入居時の現況確認書が不十分な物件では、この時点で請求が難しくなるケースが少なくありません。
精算に対する納得感が下がる
立会いの場では、査定担当者が「この箇所はクロスの張替えが必要で、耐用年数を考慮すると負担割合はこの程度」と説明できます。立会いなしで後日いきなり精算書だけが届くと、借主は内容を理解しないまま不信感を抱きやすく、消費生活センターへの相談や少額訴訟に発展する確率が上がります。
鍵と残置物の確認が遅れる
鍵の返却本数が足りない、家具や家電が残っている、といった事実の把握が遅れると、次の入居者募集のスケジュールが崩れます。残置物については借主の所有物である以上、貸主が勝手に処分することはできないため、連絡がつかなくなると処理に時間がかかります(詳しくは退去時の残置物は誰の負担?処分の進め方とトラブル対応で解説しています)。
立会いなしでも成立する条件
それでも立会いを省略せざるを得ない場面はあります。借主が遠方に転居済みで日程が合わない、繁忙期で担当者の手が足りない、借主が立会いを拒否している、といったケースです。こうした場合、次の条件が揃っていればリスクをある程度抑えられます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 入居時の記録がある | 日付入りの写真・現況確認書に借主の署名がある |
| 明け渡し日が確定している | 鍵の返却日を書面(メール可)で合意している |
| 退去後すぐに記録している | 鍵返却から数日以内に第三者が写真・動画で室内を記録している |
| 精算根拠を示せる | 見積書・写真・耐用年数の考え方をセットで提示できる |
| 借主の連絡先を把握している | 転居先住所・電話・メールを退去前に確認している |
特に重要なのは1番目です。入居時の記録がなければ、立会いの有無にかかわらず借主負担の根拠は弱くなります。逆に入居時の記録が充実していれば、退去後の写真との比較だけでも一定の説明が可能です。
リスクを抑える3つの対処法
1. 鍵返却の手順を事前に取り決める
立会いなしの場合、鍵の返却方法が曖昧になりがちです。郵送なら追跡可能な方法を指定し、到着日をもって明け渡し日とする旨を事前に伝えておきます。鍵ボックスに入れてもらう方法もありますが、いつ返却されたかを客観的に示しにくいため、少なくとも借主に返却完了の連絡を求めるようにします。
2. 退去直後に第三者が記録する
鍵返却後、できるだけ早く室内を記録します。写真は「部屋全体」「損傷箇所の寄り」「損傷箇所とその周囲」の3段階で撮ると、後から位置関係を説明しやすくなります。動画で室内を一周しておくと、写真に写っていない箇所の状態も証明できます。
このとき、オーナー自身ではなく管理会社や専門業者が記録すると、記録の中立性が高まります。自分で撮影した写真のみだと「都合の良い箇所だけ撮ったのでは」と疑われる余地が残るためです。
3. 立会いだけを専門業者に委託する
「自分たちが現地に行けない」ことが省略の理由なら、立会い業務のみを退去立会い代行業者に委託する方法があります。代行業者は退去者と現地で会い、損傷の確認・写真記録・鍵の受領・精算根拠の説明までを一括して行い、報告書として納品します。委託料はかかりますが、立会いを省略したことで原状回復費用を回収できなくなる損失と比較すれば、割に合うケースが多いでしょう。
代行サービスの内容や料金体系については、退去立会い代行とは?サービス内容と依頼するメリットで整理しています。
立会いなしで精算するときの注意点
立会いなしで精算書を送る場合、次の点を意識すると借主の納得を得やすくなります。
- 損傷ごとに写真を添付し、どの箇所のどの損傷に対する費用かを明示する
- クロスや設備は耐用年数と経過年数を踏まえた負担割合を示す(クロスは国交省ガイドラインで耐用年数6年とされ、6年経過で残存価値1円として扱う考え方が示されています)
- 通常損耗と判断した箇所は「貸主負担」として明記し、費用を請求していないことを示す
- 精算内容に疑問がある場合の連絡先と回答期限を記載する
一般的には、内訳と根拠が丁寧に示された精算書ほど異議申立てが減ります。反対に、合計金額と項目名だけの精算書は、金額の大小にかかわらず争いの種になりやすいものです。敷金精算の進め方は敷金精算トラブルを防ぐには?返還ルールと精算書の書き方も参考にしてください。
まとめ
退去立会いは法律上の義務ではありませんが、原状回復費用を適正に請求するための最も確実な証拠づくりの機会です。省略する場合は、入居時の記録の有無を確認したうえで、鍵返却手順の事前合意、退去直後の第三者による記録、根拠つきの精算書の3点を徹底してください。
「現地に行けない」「担当者の手が回らない」ことが理由であれば、立会い業務だけを外部に委託するのも有効です。退去立会い代行・原状回復Naviでは、都道府県ごとに退去立会い代行や原状回復工事を扱う地域の事業者を探せますので、繁忙期や遠方物件の対応にお役立てください。